(その12の続き)
白いバンが目の前に停まり、中から人が出てきた。迎えの人だった。
めちゃくちゃ重い旅行トランクを車の後部に載せた。
「ではこれからラスベガス空港に向かいます」
彼は言い、私と相方だけを乗せた車を発進させた。
「ラスベガスははじめてなんですか」と正確な日本語発音で彼は尋ねてきた。
今回の彼も、顔は日本人だが異国に滞在する期間によってまとう雰囲気は国籍不明。
「はい。ラスベガスに来るのは今回の旅行がはじめてです」と答え、続けて言った。
「とてもいいところできれいで楽しい街だし、お天気もいいですね。昨日は風が強くてびっくりしましたけど。あんな強風が吹くことがあるんですねぇ」
彼はそれを聞いて話し出した。
「このヘンは砂漠なので、砂嵐が吹くことがあります。私はラスベガスに来て7年になりますが、昨日のような強風は3年前くらいに一度ありました。」
ラスベガスについていろいろを話をしてくれる。
「ラスベガスは砂漠の中にあるのでいつも晴れています。たまにスコールが降ることがありますが、すぐに止みます。風が強いので砂が舞い上がってホコリっぽくなります。昨日のような強風が3年前にあったときは、砂埃がひどくてすぐ前を走っている車もみえず、大変でした。まるで深い霧みたいで、すごい渋滞になり交通がマヒしたんですよ。」
「では昨日の強風はめったにないことだったんですね。おかげでヘリで夜景を観るツアーが中止になりました」
「今日は大丈夫そうでよかったですね。飛行機も飛んでますよ」
彼がいうように次々と飛行機が飛び立っている。昨日の分を取り返すように、小型飛行機やヘリコプターが連なっていた。
「そういえば、ラスベガスに地下ってないですねー。ホテルにも地下街とかありませんし・・・。」
と聞いたら、彼は深い笑みを浮かべて話し始めた。
「ああ、地下はありません。(砂漠だから地下なんてとんでもないというように否定)ラスベガスは砂漠ですが、地下には地下水も埋まっているといわれているんですよ。でもやたらめったら掘り返したら、街は地盤沈下してしまう。」
「ラスベガスでは水は貴重ですが、その貴重な地下水を自由に使用できる権利を持った人間はラスベガスには一人しかいません」
「ベラッジオやウィン・ラスベガスやその他にもホテルを持っている人間、ウィンです。彼が地下水の水の権限を持っています。彼の持っているホテルには「水」をテーマにしたものが多いです。ベラッジオでは噴水ショー、新しいホテルでも大きな滝など、水をメインにしたものを作っているはずですし、有名な海賊ショーもそうです。」
スティーブ・ウィン。ラスベガスのホテル王の名前だった。
「ラスベガスに住む誰もが彼には頭が上りません。彼はホテルで莫大な収益を上げ、税金を納めているので州知事でさえも彼には何もいえまないのです。その代わり、ラスベガスに住む住人は税金を納める必要はありません。」
「何か事業や会社を始めようと思ったら、ラスベガスはいいところです。税の優遇はもちろんですが、事業主は雇った人間の保険料を払う義務がないからです。それはとても大きいです。何か事業を始められてはいかがですか?」
と、朗らかに言われて私と相方はハハハハハと笑った。
砂漠のように乾いた笑いだった。
ここに来る旅費だけでも大変だった。そんなことできるわけないやん。
壮大なアメリカン・ジョーク。
ビジネスの成功者ウィン。彼の作った最新のホテルは今までとコンセプトが全く違った。
噴水ショーや無料のショーをホテルの外側に解放し、観光客を確保してきた彼。
ウィン・ラスベガスでは、ホテルに泊まった人間とホテルの施設(レストラン等)を利用している人間にだけ観れるように工夫を施しているという。
残念ながら私たちは今回観ることができなかった。
ホテル自体が豪華だったし雰囲気も良かったので興味はあるが、これもいつかの機会に。
ウィン・ラスベガスの入口付近に、日本の狛犬みたいな銅像があってちょっとびっくりした。
なんとなく馴染みがあるような親しみを感じたが、それはホテルのあちこちにも感じる。
東洋的な雰囲気が漂う装飾が多かった。もしかして日本の文化や建築が好きなのかと思えた。
日本に帰ってから調べると、なんとウィンの昔からのビジネス・パートナーに日本人がいるという。そのせいだけではないだろうが、とても日本人びいきらしい。
仏教や東洋思想にも理解があり、組合にも好意的。彼の口癖のひとつには「従業員に対してお客さんと同じように接することが成功の秘訣である」というものがある。
大胆で柔軟な発想力と人の心を掴む術がある人物というイメージがわいた。彼の人柄を慕う人も多かろう。
でも水を使うのはほどほどにねと思った。ラスベガスにはフーバー・ダムがあるし。
いろいろとラスベガス話を聞くうちにあっという間に空港に着いた。重そうなトランクをもらうときにチップを渡した。
空港には「外国人が見た日本人」そのまんまのようなガイドさんが待っていてくれた。
わざと?絶対にわざとだよね?っていうくらい典型的な女性・・・。
出発は2時間後くらい。狭いながらも空港ターミナルにはスロットや免税店や軽く食事できるお店があるという。
JALのカウンターで手続きのとき、生理になりそうだったので、揺れないでトイレにいきやすい席にしてと伝えようとしたのだが、カウンターのお姉さんの日本語が怪しい。
日系何世という感じの人でこちらのいうことに「??」という感じだった。(マイレージも加算してもらうのを忘れた)
典型的日本人のガイドさんがぺらぺらっと通訳してくれたのだが、前方の席にして欲しかったのが、一番後ろから2番目の席になった。ちぇ。
でも預けたトランクの重量オーバーを不問にされたのでよしとする。(20キロまでだが22キロくらいだった)
空港ご自慢のスロットはカジノの余韻を長引かせようと、ピコピコジャラジャラ音をさせていた。
余ったコインを消費させたかったが、小銭は使えない機種だった。ちぇ。
免税店は買いたいと思う品物が全くない。品揃えが悪すぎる。
となりにはバーガーショップとなぜかアルコールが飲めるバーカウンターが。
バーテンダーさんがカクテル・シェイカーを振っている。なんと一人の外国人がたそがれてグラスをかたむけていた。
となりのバーガーショップではバーガーを頬張り、テイクアウトで買い込む巨大な外国人たちがいる。
ええ~こんな時間から酒かよと思った。(大きなお世話だ)
同時刻に飛び立つ飛行機がもう一機あったが、空港はそれほど混んでいない印象だった。
私たちの乗る飛行機は一旦ロサンゼルスで着陸し、同じ飛行機に乗って日本へ向かう。トランジットは2時間程度の予定だった。
売店でこちらの雑誌を買おうと思った。海外の雑誌は日本ではバカ高い。飛行機の中でのひまつぶしにもよかろう。
日本でいうゴシップ雑誌や暴露記事のような雑誌からファッション雑誌、スポーツ雑誌などいろいろとあり観ているだけでも楽しい。
マーサ・スチュワートの雑誌もあった。この人の名前は日本でもよく聞くし見る。
この人ほんとにすごく稼いでいるんだなぁと思った。自家用機とかもあるんだよね。
パラパラとマーサをめくるが、雅姫さんやロッテちゃん(でしたっけ?)みたいな感じだったので買うのを止めた。季節に向けての新しいテーブル・セッティングやカンタンなレシピなど。
ほかのインテリア雑誌を買った。支払いを現金にしたが、山のようにずっしりと持っていた小銭で払えた。
これで次回の旅行まで小銭を持ち越しする必要がなくなりラッキー☆
余談だがこの空港、街の華やかさとはうらはらに簡素で寂れている。近代的な日本の空港がいきすぎみたいに思えるほど。
堅い椅子に座り、買ったばかりの雑誌を読みながら飛行機を待つが、どんどん出発時刻が遅れている。
さっき買った雑誌はもう読みきってしまい、だら~っと椅子に崩れていたら日本語でアナウンスが流れた。
これから飛行機への搭乗を開始するが、小さいお子様ずれや車椅子、ビジネスクラスのお客様は先へどうぞという。
ずっと前から長蛇の列をつくっていたエコノミークラスの客たちを尻目に、ゲートが空く。
そのアナウンスがあると、近くにあった部屋のドアが開き、きらびやかな一行が現れてゲートへ歩いていく。
全身エルメスで良くお手入れされたヘアとネイルを持つマダム。
青年実業家という感じの男性とその恋人や友人達一行。
旅なれた感じのスッピン・カジュアルなファミリー。
そして目をひいたのが、エルメスのでっかいオレンジ色の紙袋を持った若い男性たちのグループ。
4~6人くらいの若いお兄さん達はお揃い?と思うくらい、全員が機内持ち込みぎりぎりサイズのエルメスの紙袋を持っていた。
彼らはカジュアルな服装だが、オシャレでお金がかかっている感じ。ハデじゃないけどちゃらちゃらした雰囲気の一歩手前で一般人とは思えなかった。
ひょっとしてジャニーズの子達か若いJリーガーか?と思ったくらい見目がよい彼ら。
中にかっこつけたヤツがいたのでもしかしてホストの慰安旅行?とも思ったが、彼らを連れているボスみたいな人は、ナイスミドルのオジサマ(カッコイイ☆)で、その奥方(控えめな美人)だろう女性が上品でセンスが良かったから違うかもしれない。
しかしこの一行は目立った。若いにーちゃんが今のうちからビジネスかよ・・・。芸能人ならしょーがないけど誰も見覚えがないぜよ。
ながーい時間をかけて飛行機に乗り込んだ。同時刻に出発だったもう一機の飛行機はとっくに飛び立ってしまっている。
飛行機に乗ってからもなかなか飛び立とうとしない。ものすごく飛行機が混んでいるのだがもうすぐ飛ぶからねという機内アナウンス。
目の前の個人モニターから観る滑走路には何機もの飛行機がぞろぞろと移動している様子と、離陸待ちしている飛行機が映っている。混み混みだ。やだなあ。
思いっきりもったいつけて飛び立った頃にはお腹が空いて空いて仕方がなくなっていた。
しかし乗換えがある。それまできっと食事はできないに違いない。
げんなりしているとロサンゼルスの街がみえてきた。
なんという整頓された街だろう。まだロサンゼルスには行ったことがない私。
私の中のロサンゼルスはなぜかいつもハリウッドとセットなのだ。ここもまだ夢の街。
いつか街を歩いてみたい。そしてキャメロン・ディアスとすれ違うのだ♪
(その14へ続く)※次回はいよいよ最終回・日本に戻ります。ぐったりした私の姿が☆